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◆「小さな黒い箱」
◆ハヤカワ文庫SF
◆大森 望・編
◆2014年7月刊行

「アジャストメント」(2011)、「トータル・リコール」(2012)、「変数人間」(2013)、「変種第二号」(2014)に続くハヤカワ文庫からのディック短編集シリーズ全6巻の第5巻。
編者・大森望による巻末の「編者あとがき」によれば、本作は「主として宗教や政治を扱った作品を収めた」ということ。全部で11編を収めるが、50年代の作品は3編のみであり、「後期寄りと言えるかもしれない」と説明している。
収録作のほとんどは既刊の短編集に収められたばかりのものだが、唯一1980年の『ラウタヴァーラ事件』は、1984年「日本版オムニ」に『ラウタヴァーラの場合』のタイトルで仁賀克雄による訳が収められた後、短編集には今回が初収録となるもの。大森望の新訳でマニア向けの目玉だろう。僕も初めて読んだ。
それ以外はすべて既訳をそのまま収録しており、上記『ラウタヴァーラ事件』の他『待機員』『ラグランド・パークをどうする?』が大森望訳、他はすべて浅倉久志の訳によるもの。さすがに5巻目ともなると傍流の作品が多くなるように思うのはテーマゆえか。だが、『時間飛行士へのささやかな贈物』は何度読んでも胸が痛くなる名作。もしかしたら僕が最も好きなディックの短編かもしれない。それが書店に手に取れるだけでも本作の価値がある。

 

The Little Black Box 小さな黒い箱 1964 浅倉久志・訳

短編集「ゴールデン・マン」に収められた同名作の再録。 

The Turning Wheel 輪廻の車 1954 浅倉久志・訳

短編集「悪夢機械」に収められた同名作の再録。 

Rautavaara's Case ラウタヴァーラ事件 1980 大森望・訳

宇宙ステーションの事故で仮死状態になったアグネタ・ラウタヴァーラを、事故現場に急行して蘇生させようと試みたプロキシマ・ケンタウリ星系生命体の報告書ないしは弁明書の体裁を取った作品。死体を処分した栄養分で蘇生させられたラウタヴァーラの脳は救い主の幻覚を見る。ラウタヴァーラの脳は来世に開いた窓として生き返ったのだ。何だか有難い話だが、難解になることなく、神学議論に陥ることもなく読み物として成立させたのは経験のなせる業か。これまで短編集に収録されなかったのが不思議な佳作。
 

Stand-By 待機員 1963 大森望・訳

短編集「シビュラの目」に収められた同名作の再録。 

What'll We Do With Ragland Park? ラグランド・パークをどうする? 1963 大森望・訳

短編集「シビュラの目」に収められた同名作の再録。 

Holy Quarrel 聖なる争い 1966 浅倉久志・訳

短編集「シビュラの目」に収められた同名作の再録。 

A Game Of Unchance 運のないゲーム 1964 浅倉久志・訳

短編集「まだ人間じゃない」に収められた同名作の再録。 

The Chromium Fence 傍観者 1955 浅倉久志・訳

短編集「永久戦争」に収められた同名作の再録。 

James P. Crow ジェイムズ・P・クロウ 1954 浅倉久志・訳

短編集「マイノリティ・リポート」に収められた同名作の再録。 

Waterspider 水蜘蛛計画 1964 浅倉久志・訳

短編集「マイノリティ・リポート」に収められた同名作の再録。 

A Little Something For Us Tempunauts 時間飛行士へのささやかな贈物 1974 浅倉久志・訳

短編集「時間飛行士へのささやかな贈物」に収められた同名作の再録。 



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