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●「トータル・リコール」
●ハヤカワ文庫SF
●大森 望編
●2012年7月刊行

短編「トータル・リコール」がレン・ワイズマン監督により再映画化されたため、映画の日本公開に合わせて新たに編まれた短編集。「トータル・リコール」を巻頭に、過去に映画化された「マイノリティ・リポート」を巻末に配して全部で10編を収録しているが、本邦初訳となる「ミスター・スペースシップ」、既訳はあるものの短編集にはこれまで未収だった「非O」「フード・メーカー」など貴重な作品を丁寧に取り上げており新たに購入する価値はある。他にも「吊されたよそ者」を新訳で収録。

 

We Can Remember It For You Wholesale トータル・リコール 1966 深町真理子・訳

短編集「模造記憶」に収められた「追憶売ります」を改題して再録。 

The Exit Door Leads In 出口はどこかへの入口 1979 浅倉久志・訳

短編集「悪夢機械」に収められた同名作の再録。 

The Defenders 地球防衛軍 1953 浅倉久志・訳

短編集「永久戦争」に収められた同名作の再録。 

Planet For Transients 訪問者 1953 浅倉久志・訳

短編集「悪夢機械」に収められた同名作の再録。 

The Trouble With Bubbles 世界をわが手に 1953 大森望・訳

短編集「マイノリティ・リポート」に収められた同名作の再録。 

Mr. Spaceship ミスター・スペースシップ 1953 大森望・訳

プロクシマ・ケンタウリのヤク人との宇宙戦争のただ中にある人類。敵の生体兵器に押され劣勢の人類は、起死回生の策として、コンピュータの代わりに人間の脳を宇宙船に搭載し、複雑な判断を行わせようと企てる。志願した老科学者の脳を搭載した宇宙船はしかし、自分の意思で勝手な行動を取り始める。訳者による解説の通り、確かに完成度は高くなく、長く未訳だったことも肯けるが、着想はいかにもディックらしく「2001年」のHALをも思い起こさせる秀逸な設定。結末があまりにも便宜的かつお気楽なのが惜しまれる。 

Null-O 非O 1958 大森望・訳

「SFマガジン」に掲載されたのみで短編集未収だった作品を新訳で収録。一切の情緒、感傷を持たない「新人類」である非O(非オブジェクト指向)。モノ(オブジェクト)は実在しないと主張する彼らは宇宙を「等質化」するために核戦争を主導し、地球を、太陽系を、そして宇宙全体を破壊しようとするが、わずかに生き残った「普通」の人類の逆襲に遭い壮絶な戦いが展開される。最後に非Oが傷つき死にゆく同志に「きみのことは忘れない」と呼びかける下りで腹を抱えて笑わなければならないのだろうと思うのだが。 

The Hood Maker フード・メーカー 1955 大森望・訳

「PKD博覧会」という書籍に「ちょっとした隠しごと」のタイトルで掲載されたが短編集には未収だった作品を改題して新訳で収録。事故の結果生まれたテレパスにより人々の思考が走査、検閲される世界で、走査を妨害する特殊な金属環(フード)を製作しては配布する反体制活動家。ついにテレパスと活動家の衝突が起こるが、活動家はテレパスが子孫を残せないことを知っていた。「人類の進化形ではなかったんだよ。きみたちはただのフリークスなんだ」と言い放つ活動家。もっと広く読まれて然るべき秀作だと思う。 

The Hanging Stranger 吊されたよそ者 1953 大森望・訳

短編集「人間狩り」に収められた「ハンギング・ストレンジャー」を改題し新訳で再録。 

The Minority Report マイノリティ・リポート 1956 浅倉久志・訳

短編集「マイノリティ・リポート」に収められた同名作の再録。 



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