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「少数報告」がスティーブン・スピルバーグ監督により「マイノリティ・リポート」として映画化されたことから、同作を巻頭に、映画「トータル・リコール」の原作である「追憶売ります」を巻末に置き、それ以外は未訳の作品を中心として新たに編まれた短編集。ハヤカワ文庫から刊行されており、編者は浅倉久志と見られる。

 

The Minority Report マイノリティ・リポート 1956 浅倉久志・訳

少数報告」(「悪夢機械」収録)と同一作品。本編収録に際して改題、浅倉の「解説」によれば訳文にも一部手を入れたとされている。
 

James P. Crow ジェイムズ・P・クロウ 1954 浅倉久志・訳

人間がロボットに支配され、下層階級に置かれている世界。人間はロボットが兵器として「発明」した存在であり、ロボットが持つ高度な情報処理能力を欠くとされている。その社会では「テスト」があり、合格者は支配層への登用が約束されるが、合格者はロボットばかりだった。だが、ただ一人、ジェイムズ・クロウという人間だけがこのテストに合格し、高い地位についているという。彼はやがてロボットと人間の真の関係を突き止める。ジム・クロウは類型的な黒人や人種差別を表す代名詞。よくできた作品である。
 

The Trouble With Bubbles 世界をわが手に 1953 大森望・訳

太陽系のどの惑星にも生命が存在しないと知った人々は、有り余る余暇も手伝い、「世界球」に熱中するようになった。小さな模型の惑星に生命を発生させ、進化させ、最後には高度な文明社会を発展させる。精密に作られた世界球は、それ自体がひとつの小宇宙だった。だが、人々は手塩にかけて育てた世界球を次々と破壊するようになる。それは世界を支配したいという欲求、自分が手にした力の確認なのか。ガジェットはSF的だがテーマは意外と内省的。最後に用意された落ちもオーソドックスではあるが力がある。
 

Waterspider 水蜘蛛計画 1964 浅倉久志・訳

光速に近いスピードでの恒星間旅行。だが、そこには致命的な技術的問題があった。飛行の過程で質量が失われ、数センチに縮んでしまうのだ。これを解決するために、20世紀に大量出現した予知能力者を時間浚渫機でさらってこようというのだ。彼らが連れてこようというのはSF作家のポール・アンダースン。彼らの見立てによれば20世紀のSF作家たちは皆予知能力者だった。だがそれによって歴史は改変され、彼らが求めた情報もまた失われてしまう。楽屋落ちとタイム・パラドクス、余裕の窺える作品である。
 

Stability 安定社会 1987 浅倉久志・訳

巻末の解説によればディックの死後に発表された作品だが執筆は初期。すべてが飽和に達し自ら進歩を止めた未来社会。主人公のベントンは何者かに導かれ、「呪われた都市」を閉じこめたガラス球を手に入れる。閉じこめられた都市は解放されることを求め、ベントンに圧力をかける。やがてガラス球は割られ、そこから現れたのは工場とそこで機械の奴隷となって働く人間たち。呪われた都市とは現代社会そのものなのか。作品として熟しきっていない感もあるが、ファンタジー的な面も見られ興味深い作品だ。
 

The Crystal Crypt 火星潜入 1954 浅倉久志・訳

火星と地球の関係は悪化、戦争の危機が訪れている。火星から地球に向かう最終便に、火星に潜入して破壊活動を行った地球のエージェントが紛れ込んでいるという。だが、「火星の都市を破壊したか」との嘘発見器の質問に、乗客はいずれも「シロ」の反応を示す。それもそのはずで、エージェントたちは火星の都市を丸ごとガラス球に閉じこめたのだった。火星当局の臨検が終わりようやく地球に向けて飛び始める宇宙船。だが最後に真相が暴かれる。火星に夢があった時代のSF冒険活劇。素直に楽しむべきだろう。
 

We Can Remember It For You Wholesale 追憶売ります 1966 深町眞理子・訳

短編集「模造記憶」に収められた「追憶売ります」の再録。



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