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耐震計算、偽造認める 建築士「仕事増やしたくて」 (朝日新聞 2005年11月18日)

首都圏のマンションなど21棟の建築確認に偽造した構造計算書が使われたとされる問題で、千葉県市川市の姉歯建築設計事務所の姉歯秀次1級建築士(48)は18日、取材に対し偽造を認めた上で、「仕事を増やしたかった」などと語った。一方、国土交通省はこの日、国交相の諮問機関、社会資本整備審議会の中に専門部会を新たに設けて早急に検討することを決めた。また、東京都中央区のビジネスホテルは18日から営業を休止した。(後略)


デフレだといわれて久しい。最近では株価も上昇し始めているし、都心の地価も上がり始めているようだから、そろそろデフレも終わりなのかもしれないのだが、結局デフレって何だったのだろう。

デフレというのは経済学的にいえば需要が供給を下回ることによって起こる物価の下落とそれに伴う賃金の低下、購買力の低下がさらに需要の減少を招くという一連の経済循環のことだ。100円ショップに代表される激安ブームみたいなものはこうした連鎖の中で起こったと考えていいだろう。

もちろん物価が下がるのは消費者として単純に嬉しいことには違いない。だが、そのために僕たちはもしかしたら値切ってはいけないものまでを値切り、削ってはいけないコストまで削ってしまったのではないだろうか。

例えば高速料金を節約するために地響きを立てて真夜中に一般道を疾走する長距離トラック。例えば頻発する飛行機の整備不良。例えばクズ肉の寄せ集めをステーキと偽って売るファミリーレストラン。例えばいい加減な構造計算で仕事を獲得しようとする建築士…。

正当なコストの削減努力、価格競争はあってしかるべきだ。しかし、デフレの中でとにかく値段を下げるためにあらゆるコストを削りに削った結果、本来かけるべきカネが十分にかけられていない安っぽい商品や危なっかしいサービスがそこらじゅうにあふれることになった訳だし、そうしたコスト削減のツケはリストラやインフラの減耗という形で結局僕たち自身が払うことになるのだ。

居眠り運転で大事故を起こした長距離トラックの運転手を責めるのはたやすいことだし、偽物の構造計算書で安い建物を供給した建築士を非難するのもいい。だけど、そんなことになったそもそもの原因は、デフレ社会で物価が下がるのは当然とばかり安物を漁り続けてきた僕たちの消費行動にあるのではないのか。少しでも安くと僕たちが願ったからこそそのコストが僕たちのところに跳ね返ってきただけのことではないのか。

一方で現代社会のさまざまな便益を不相応に安く享受しながら、他方でそれが生み出すコスト、リスクを他人事のように指弾するのは許されないことのように僕には思われる。



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