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東証社長、システム障害で謝罪 第三者機関で防止策検討 (朝日新聞 2005年11月2日)

東京証券取引所の鶴島琢夫社長は2日、記者会見を開き、前日のシステム障害で全銘柄が長時間売買不能になったことについて「投資者や証券会社、上場会社に多大な迷惑をかけ、心からおわびする」と謝罪した。今後は第三者の専門家でつくる社長の諮問委員会を新設して再発防止策を検討する。(後略)


ポイント故障やら人身事故やらで電車が遅れる度に、「駅員に詰め寄る乗客」みたいなニュースが流れたりするのだが、みんないったい何を怒っているのだろうと僕は思ってしまう。もちろん早く家に帰りたいのに電車が動かないのは不愉快だ。何とかして欲しい。だけど鉄道会社の人たちだって早く運転が再開できるようにいろいろと手は尽くしている(はず)。そんなところで詰め寄ったってそれで電車が早く動き出す訳じゃなし、この怒りっぽい人たちはいったい何のために無駄なエネルギーを使っているのだろうと思うのだ。

だいたい僕たちは、電車やら証券取引所やらライフラインやらコンビニやら携帯電話網やらといった都市システムみたいなものが、何の問題もなく動いているのが当たり前だと思っているのではないだろうか。そういう複雑に入り組んでもう全体がどうなっているかだれにも分からないようなシステムがそこらじゅうにあって、そういうものが僕たちの生活の基本的なインフラを構成していて、些細なバグや操作ミスで日本中が大混乱に陥ってしまう可能性は毎秒あるのだということを、僕たちは忘れているのではないだろうか。

どんな複雑なシステムでもそれを作ったのは人間である。人間はミスをするのだから人間が作ったシステムも誤作動するリスクは常にある。テストをしたりバックアップを取ったりコンティンジェンシー・プランを作ったりしてそのリスクを最小限にとどめ、何とかマネージする試みは当然行われなければならないが、一方でユーザである僕たちも、システムがコケるというのは何であれ十分あり得る話なのだということを初めから承知しておくべきなのではないか。

基幹システムに少しずつ手を入れ、使い勝手を改良し、追加機能をくっつけたりしているうちにいろんな継ぎ足しでシステムが巨大化し、元の姿がどうだったかももはや分からない、一カ所いじるとそれがシステムのどこにどんな影響を与えるのかも分からない、なんてのはよくあることなんじゃないかと思う。もちろん東証のシステムが止まってしまったことはけしからんことに違いないけど、1日で3兆円もの売買を取り仕切るシステムがふだんまともに動いていることの方が僕はすごいと思う。

電車はたまに止まるもの、システムは時折ダウンするものだと思っておいた方がいい。日本中ですごい数の人たちがすごい手数とコストをかけて、何とかシステムがコケないように日夜努力しているからこそ、僕たちの社会は結構ぎりぎりのところで危うく持ちこたえているだけのことなのだ。システムの自動性や完全性、無謬性をだれもが楽観的に信用している社会というのは、結構笑えないSFみたいな怖い話なんじゃないかな。



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