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フェイエノールト、小野の招集拒否を通告 (朝日新聞 2005年3月17日)

サッカー日本代表MF小野伸二が所属するフェイエノールト(オランダ)が、イラン(25日)、バーレーン(30日)とのW杯アジア最終予選に小野を招集しないよう日本協会に連絡してきたことが17日、わかった。

川淵会長によると、15日に届いたファクスは「小野は昨年末の左足首手術から回復途上で、W杯予選2試合に出すのは無責任だと考える」と招集拒否を伝える内容。

しかし、小野は13日のローダ戦に先発出場、直接FKを決めるなど終了間際まで出場している。

深刻なけがなどがない場合、クラブ側に拒否権はなく、日本協会は16日、予定通り招集する意向の返事を出した。問題の背景には、ふだんから日本代表への早期合流を求める協会とクラブの確執があるとみられる。


確かに自分のクラブの試合にはフルに出しておいて、代表戦に出すのは「無責任」と言い募るのは笑い話だが、クラブが日本協会の代表戦至上主義にいらついているのは容易に理解できる。何しろもともと日本協会は、クラブでのリーグ戦をスキップして代表の練習に合流させろと言っていたのである。ダメもとで言っているんだろうとは思うけど、それは小野がフェイエノールトの貴重な戦力であればあるほど非常識な話だ。

もちろん各国の協会とヨーロッパのクラブが代表選手の召集をめぐって対立するのは珍しいことではない。優秀な選手の「輸出国」はどこも発言力の強いヨーロッパのビッグ・クラブを相手に苦労していると言っていいだろう。そうした国は代表戦の数日前にようやくメンバーをかき集め、少ない練習で試合に臨まざるを得ない宿命を背負っている。ブラジルもアルゼンチンもクロアチアもチェコもみんなそうだ。日本もようやくそういうぜいたくな悩みを持てるようになったということかもしれない。

だけど、それにしても、試合の1週間以上前から国内のリーグ戦をお休みし、わざわざドイツにまで出向いて代表のキャンプを張る日本の代表至上主義は、国際標準から見てちょっと異常なように思える。確かに、世界のサッカー界では日本はまだまだ新興勢力に過ぎない。その日本が存在を主張するためには、国内のリーグ戦を少々犠牲にしてでも代表戦で勝ち上がりワールドカップ出場を果たすことがまず必要なのだ、という考え方はあり得るのかもしれない。

でも、代表選手は代表の仕事だけをしている訳ではない。というか本来の仕事はクラブの選手である。給料だってクラブからもらっている。そこで練習し、試合をし、技術を磨き、その成果を認められて初めて代表に召集される訳である。代表はクラブでのリーグ戦という日常を勝ち抜いてこそ与えられる名誉であり栄典なのだ。だから代表を強化したければまずリーグ戦を充実しなければならないのは当然だ。インターナショナル・マッチ・デイでもないのに、代表戦のために国内のリーグ戦日程を休みにしたりするのは本末転倒ではないのか。

そうやって主力選手が代表の合宿に召集されている間に開催されるナビスコカップというのも奇妙な大会だ。もちろん代表選手が抜けている間も試合日程を中断させず、残った選手たちに真剣勝負の機会を与えようという意図があるのならそれはありがたいことだが、こんな大会が必要になるのだってそもそもリーグ戦の真っ最中にその日程を中断して代表合宿を優先させたりするから。まあ、去年優勝しておいて言うのも何だが、公式戦に代表合宿をぶつけること自体がやはり異例だし考え方の順序がおかしいのではないか。

日本では「ドーハの悲劇」やワールドカップの自国開催があって、代表の方がリーグ戦より盛り上がるという奇妙な現実があるが、そろそろリーグ戦あってこその代表だということをきちんとアピールするべきだと思う。だいたい代表のファンなんてものは本来あり得ないはずだろう。地元のチームをきちんとサポートして初めてその延長に代表があるというのが物事の成り立ちというもの。国内のクラブも国際規約以前の代表召集は拒否するくらいのことをしてはどうか。



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