ダブル・スタンダード1995年9月、フランスは国際世論の強い反対を押しきって南太平洋のムルロア環礁で地下核実験を行った。国連総会は核実験の即時停止を求める決議を採択したが、フランスはその後も、核実験全面禁止条約が成立してしまう前に必要な核実験データを獲得しなければならない、として数度の実験を強行した。 フランスが今、イラク攻撃に反対しているとすれば、それは、それがフランスの利害に合致するからに他ならない。例えばフランスはフセイン政権の下でイラクの石油利権のいくばくかを確保しているのに、アメリカはイラクの石油に足がかりを持っていないとか何とか。アメリカが軍事力による世界支配をたくらむ悪の権化でないのと同じように、フランスは世界の平和を純粋に願う聖者のような国家ではない。アメリカも、フランスも、ただ自国の利益を極大化するように駆け引きをしているだけだ。それが外交ということの意味なのだ。 ところで世界中で反戦の気運が盛り上がっているのだそうだ。僕だってできることなら戦争なんか起こらない方がいい。フセインは悪いヤツかもしれないけれど、少なくとも僕の日常生活には直接何の関係もないし、そんなヤツのためにはるばる出かけて行って戦争しようというアメリカはおめでたいというか立派だと思う。別にフセインがクウェートに侵攻したってどってことないじゃん、ほっとけば。化学兵器も核兵器も探しても出てこないみたいだからいいんじゃないの。 それより問題は北朝鮮だろう。こないだは米軍の偵察機に北朝鮮のミグが幅寄せしたらしい。日本海にミサイル撃ちこんだり戦闘機が軍事境界線を侵犯したり、だんだん見境がなくなってるね。何よりよその国まできて堂々と人さらいするような国だしね。あんなのが隣にあると思うと夜も眠れない。 こうした北朝鮮情勢に対応して米軍は西太平洋地区の戦力を増強してくれるらしい。正直言ってホッとした、あるいは頼もしく思った人は少なくないんじゃないか。僕はそうだった。ブッシュ大統領は「外交努力がうまくいかなければ、軍事的に取り組む必要があるだろう」と言っているらしい。もちろん戦争はイヤだけど、あんな危なっかしい国にはいずれそれしかないかもしれない、と思っているのは僕だけではないはずだ。 結局、遠い国の戦争には抽象的に反対できるけど、具体的な危険、危機を提示されながら丸腰でいる根性はなかなか出てこないということなのだ。僕はそんなダブル・スタンダードを非難するつもりはない。地政学的に見て我々により切実なのはイラクより北朝鮮だ。そんなことは自明のことだ。そして我々が自らの安全保障を考える上で東アジアにおける米軍のプレゼンスをあてにせざるを得ない立場にあることを思えば、イラク攻撃に関してもアメリカを支持しておくしかないという判断は日本の外交としてあり得ることだ。 そうでなければ、日本はイラクにおけるアメリカの武力行使には反対したのに自分の庭が荒らされそうになるとアメリカに泣きつくのか、と世界の笑い者になるだろう。どのツラ下げて米軍の出動を乞うのか、と言われないためには、テポドンが東京に「着弾」しても、「仕方ないですな、我々はあの時イラクでのアメリカの武力行使に反対しましたからね、北朝鮮にだけガツンとやってくれとは言えませんわ」と平然と笑っていられるくらいの覚悟が必要だということだ。 申し訳ないが、僕にはそんな覚悟はない。 2003 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |