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A:「こどもの日だね」
B:「そうだね」
A:「ところが」
B:「ところが、だ」
A:「ひどい事件が続いて」
B:「そう」
A:「何なんだろうね、いったい」
B:「まったく」

A:「こういう事件が起こるといろんな人が出てきていろんなことを言う」
B:「僕らもそうだけどね」
A:「で、出る結論はだいたいこうだ。『近頃の子供は怖い、何を考えてるかよく分からない』」
B:「まるで怪物扱い」
A:「そう。でも子供たちを怪物にしたのは他でもない大人たちだよね。もちろん僕たちも含めてね」
B:「そうなんだ」
A:「僕は思うんだけど、大人もみんな昔は子供だった訳だ」
B:「そりゃそうだ」
A:「みんな、心の中にいろんな闇や畏れを抱えながら世界と向かい合ってたはずなんだ。途方もない心細さや寄る辺のなさと闘ってたはずなんだ。そうだろ」
B:「ま、そんなこと考えたことのない人もいるかもしれないけどね」
A:「まあね。でも、そんな自分の子供の頃のことを考えてみれば、今、途方もない事件を起こしてしまうヤツらと、その頃の自分との間にそれほど大きな距離があるとは思えないんだよ。そこで何か取り返しのつかない一歩を踏み出してしまうかどうかは、結局ごく些細なきっかけに過ぎないんじゃないかと、僕にはそう思えてならないんだ」
B:「僕は『人を殺してみたい』なんて思わないけどね」
A:「子供はみんな怪物なんだ。それは昔からそうなんだ。ただそれを社会の内部につなぎ止めておく手だてを大人の方が見失っているだけなんじゃないかな」
B:「そういえばキングの小説にも怪物化した子供だけの村に迷いこむ話があったね。『トウモロコシ畑の子供たち』だったっけ」
A:「大人たちが自信を失っている。大きなパラダイム・シフトが起ころうとしているのにそれについて行けているのはわずかな人たちだけで、ほとんどの人は途方に暮れている。大人が自信を持って未来図を描けない世界で、子供だけが将来に夢を持てる訳がない」
B:「その通り」
A:「大人が『基準』や『規範』のようなものを示せないのに、子供に秩序が守れる訳がない」
B:「その通り」
A:「僕たちの責任だ。僕たちの責任なんだ…」
B:「まあまあ」
A:「僕たちが彼らに示すことのできる『基準』とは何だろう。『規範』とは何だろう」
B:「難しい」
A:「でも考えなければならない。僕たちは話し続けなければならないんだ」
B:「疲れるけどね」
A:「疲れる。答えも出口もないかもしれない。でも話し続ける。話しかけ続ける。親にも、子供にも。なぜか。そうするしかないからだ」
B:「ふむ」

A:「あと、こういうときに必ず出てくるのが、昔は空き地があってガキ大将がいて遅くまで外で遊んでいた、あの時代には問題なんて何もなかった、という議論」
B:「クソだ」
A:「そうだ。ああいうのを聞くと吐き気がする。今日の某紙の社説にも『群れ遊び』なんて言葉が載っていた」
B:「腐臭が漂ってくる」
A:「それは都市化や情報化という社会の実像を無理矢理忘れたあまりにナイーブで楽観的で無効な考え方だ」
B:「まったく」
A:「そこにはこの都市化、情報化した社会でどのような新しい教育環境を構築するのかという問題意識がまったく置き去りになってる。自動車は危ないからやっぱりやめてみんな歩きましょうと言ったって、一度自動車を持った社会は決して後戻りできないんだ。そこで必要なのはいかに自動車の危なさを受け入れ可能な形に変えて社会に取りこむか、自動車が存在するということを前提にしてそれをマネージし既存の社会と調和させて行くかという問題意識だろう」
B:「クルマは便利だからね」
A:「外遊びよりよっぽど刺激的なメディアを次から次へと子供に与えておいて、いまさら『群れ遊び』はないだろう。一度与えたプレステを取り上げる訳にはもう行かないんだよ。それに僕はそんな封建的でムラ社会的な共同体には戻りたくもない。それよりはいかにこの都市の風景の中で、プレステとiモードの社会でそれに対峙できるタフさを持った子供を育てることができるかということだろう。いかにバーチャルをリアルに還元できるクレバーな子供を育てるのかということのはずだ」
B:「プレステは面白いからね」
A:「21世紀対応型の子供は『群れ遊び』なんかからは絶対に生まれないと言わせてもらおう」
B:「それはちょっと極端かもしれないけど」
A:「いいんだよ、スローガンなんだから」

B:「それじゃ、最後に言わせてもらっていいかな」
A:「いいよ。何だい?」
B:「つまらない大人にはなりたくない」



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