logo 借りたお金は返しなさい


テレビなどでも派手に宣伝をしていたココ山岡という宝飾業者が倒産、ローンを組んでそこからダイヤモンドを買った人たちが、信販業者はココ山岡の経営状態の悪化を知りながらローンを貸し出したのだから自分たちにはローンの返済義務はないというよく分からない理屈で訴訟を起こした。それについて書いたのがこの文章である。この訴訟はその後和解が成立したようである。(2001.6.10)


ローンを組んでココ山岡から買い戻し特約付きでダイヤモンドを買い、同社の倒産によって買い戻しが履行される見通しのなくなった人たちが、信販会社に対し、ローン残金の支払い義務がないことの確認を求めて訴訟を起こしているという。職業柄見方が偏っていると思われるかもしれないが、それでも僕はこの国における自己責任とはどうなっているのかということを憂慮せざるを得ない。

我々は金融業である。借り手に物的もしくは人的な信用があり、資金使途が公序良俗に反しない限り(資金使途が賭博や犯罪である場合など)カネを貸すのが仕事である。そのカネで購入したものが不良品であっても、あるいは売り手が詐欺師であっても、そのことは我々の審査の対象ではないし、もっと言い切ってしまえば我々の責任ではない。カネを借りることとそのカネでものを買うこととは経済的に別個の行為であるはずだし、売り手が信用のおける相手なのか、それが経済的に合理性のある取引なのかは、買い手自身が責任をもって判断すべき事柄のはずではないのか。

ダイヤモンドを買うか買わないかはあくまで買い手の問題である。それがもし詐欺であったというなら、売り手を相手に詐欺による取引の取消を求めるのが筋だし、売り手が倒産して回収の見込みがないというのは自己の債権者に対する言い訳にはならない。もちろんダイヤモンドの買い戻しが履行されないためにローンが資金的に返済不能になるということは観念的には考えられないではない。そのときは自己破産でも申し立てる他ないが、買い戻しが将来一括で予定されており、ココ山岡が倒産するまでローンの返済が可能であったことを考えると、そういうことは実際にはあり得ないだろう。

提訴した側がローン残金の支払い義務はないと考える根拠は、信販会社がココ山岡の経営状態の悪化を知りながら買い手にダイヤモンド購入の資金を貸し付けたということらしい。今回のケースはおそらく我々の業界でいう提携ローン(貸し手が財物の売り手と提携してその買い手に資金を貸し付けるローン、自動車のディーラー・ローンやマンションの販売会社が紹介する住宅ローンなど)であろうし、そのことが買い手(であり借り手)にダイヤモンドの購入とローンの一体性を印象づけたのだと推測される。もちろん提携を組んだ会社が倒産することは信販会社にとって名誉なことではない。しかし信販会社に、提携先の経営を監督し、経営不振の兆候があればローンの実行を停止するような義務はない。よしんば提携先の経営不安を知り得たとしても、少なくとも買い手に対し、売り手の経営不安を指摘し、ダイヤモンドの購入、ローンの借入れを思いとどまらせるべき義務はないと言うべきである。我々は信用調査会社ではないのだ。

確かに、ココ山岡が倒産して買い戻しは実行されない、ダイヤモンドを他に売り飛ばしてもいくらにもなりそうにない、その一方でローンは残って支払は続けなければならないというのではいかにも悔しい、納得できないという気持ちは十分理解できる。しかしそれは信販会社の不始末ではなく自分の不始末に他ならない。その尻をたまたまカネを持っていそうな信販会社に拭かせようというのはいかにも場当たり的、八つ当たり的な発想ではないだろうか。もし自分が消費者だ、経済弱者だというだけで保護してもらえる、誰かが最終的に面倒をみてくれるという考えが彼らの頭、いや日本人全体の頭の中にあるのであれば、それは大げさに聞こえるかもしれないが日本経済崩壊の序曲なのかもしれないのだ。



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