logo THE COLLECTORS 〜さらば青春の新宿JAM〜


東新宿にあったライブハウス「新宿JAM」の閉店に合わせ、ザ・コレクターズが2017年12月24日に行ったライブの様子を軸に、彼らが初めて新宿JAMに出演した頃のエピソードや当時のモッズ・ムーブメントについて、加藤ひさし、古市コータローを初め、片寄明人、真城めぐみ、リリー・フランキーらのインタビューを交えながら構成したドキュメンタリー。

ライブ・シーンもあるものの、決してコレクターズのライブ・フィルムという訳ではなく、「さらば青春の〜」とタイトルを冠している通り、新宿JAMという「場」を通して、コレクターズと日本のモッズ・シーンの関わりを丁寧に解き明かして行く作りになっている。

最も共感したのは、加藤やコータローが語る、インターネットのない時代にどうやって海外のユース・カルチャーに触れ、そのディテールを少しずつまるで謎解きのように学んで行ったかというエピソードだ。加藤が大事に保管していた古い雑誌のバック・ナンバーを取り出し、そこに載っているモッズ特集を自慢げに、同時にとても愛おしそうに説明する場面にこの映画のすべてが集約されていると言っていいかもしれない。

映画「さらば青春の光」を仲立ちにして同好の仲間が少しずつ集まり、それが次第にひとつのムーブメントと呼べるものになって行く過程の説明は、そこに自分の居場所を見出して行く少年たちの成長譚を聞くようだ。

今なら、かなり特殊な趣味でも、それを分かり合える仲間とインターネットを介し地理的懸隔を超えてつながることもそれほど困難ではない。しかし、インターネットも携帯電話もない時代に、頭と足とカネを使って少しずつ情報を集め、パズルのピースを探すように自分の世界を作り上げて行く作業は、それ自体がひとつの旅であり、自分というものの内面に降り立って自分が何者であるかを問う行為に他ならないのである。

彼らにとって、M51やフレッドペリーのポロシャツ、ランブレッタのスクーターがそうであったように、僕にも例えば何軒も輸入盤屋を探し歩いて手に入れたレコードだったり、バイト先のレコード屋で店長に頼みこんでもらった好きなアーティストの非売品の宣材だったり、自分を形成する道のりの中で身につけて行った重要な「装備」がある。

それらはひとつひとつ手に入れる困難さに比例した固有で強固な物語をまとっており、それらの物語が重層的に交差するその交点に僕自身がいる。この映画は、コレクターズを作り上げているそうしたいくつもの物語の重なりを描き出すことで、僕たち自身の中にある僕たち自身の物語をもまた召喚するのである。

不自由だった時代がよかったというような結論には与したくないが、少なくとも不自由な時代にしかでき得ない「自分の作り方」みたいなものがあり、それはいろんなものが効率的に手に入る現代ではもはややろうと思ってもできないというのは確かなことだと思う。

しかし一方で、どんな時代、どんな社会にあっても、若き魂は長い夜の間に膨れ上がった自我に呻吟し、解放を求めてやみくもに叫び出す。そしてその「解放」は、ある意味手軽になった一方で、その個的な救済はますます困難になっているとも言える。この映画は、そうした現代の若き魂たちの物語をも召喚することができるのか。是非、コレクターズを知らない若い世代にも見て欲しい。

もうひとつ興味深かったのは、加藤もコータローも異口同音にJAMは通過点であり早く次に行きたかったと語っていることや、メジャー・デビューのために敢えてモッズ・シーンと距離を置きながら音楽に特化する方向に進んだと振り返っていることだ。半ば冗談であるにせよ、このハコ自体に感慨はないと語る彼らは、もともとこのキャパシティには収まりきれない上昇志向をあらかじめその内に抱えていたのであり、その意味でこの映画は単なる懐古ではなく彼ら自身の成長の物語でもあるだと思う。

とはいえ、全編に渡って加藤とコータローの軽妙なやり取りが楽しい、質の高いエンタテインメントであることは間違いない。しんみりするかと思って見に行ったら笑いっぱなしだった。内容とかあまり予備知識なく、コレクターズの映画だというので取り敢えず見に行ったが、すごくお得感のある作品だった。



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