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時の声

  The Voices of Time and Other Stories (1962)
  時の声 創元SF文庫(1969)


The Voices Of Time 時の声 (1962) 訳:吉田誠一

何もかもが飽和点に達したように少しずつ退化し始める生物たち。次第に睡眠時間が長くなって行く麻酔性昏睡患者。宇宙の彼方から送られてくるカウントダウン。患者が干上がったプールの底を削って描き出す奇妙な曼陀羅のイメージは鮮やかで、宇宙の時間が尽きかけていることと僕たち自身が少しずつすり減って行くことを重ね合わせて見せる。終末に向かう自分を静かに外側から眺めているような奇妙な覚醒感はバラードの原風景だ。

The Sound-Sweep 音響清掃 (1960) 訳:吉田誠一

現実の音が周囲に刻み込んで行く残響を吸い取ることを仕事にする音響清掃人で唖の主人公と、超音波音楽の時代に仕事を失い自暴自棄の日々を送るかつての花形女性オペラ歌手。壁にしみこんだ音の残滓、音のゴミ捨て場といったイメージも秀逸だが、聖なる障害者と彼を精神的に支配する女性の組み合わせはひとつの原型か。主人公がいったん取り戻した声を再び失う結末はありきたりだが、人物の造形だけで半分以上完成した作品だろう。

The Overloaded Man 重荷を背負いすぎた男 (1961) 訳:吉田誠一

何かをじっと凝視していると、次第にそのものから意味が剥落し、ただの抽象的な「形象」に見えてくる経験はだれしもあるだろうが、その先にあるものをさらに突き詰めて行ったような作品。主人公は仕事を辞め、家で一人、身の回りのものから意味を剥ぎ取る作業に没頭している。妻が口うるさく話しかけても彼にはもう聞こえない。最後に残された作業は自分自身から意味を剥がすことであり、それはつまり発狂するということなのだ。

Zone Of Torror 恐怖地帯 (1960) 訳:吉田誠一

人間の中枢神経系統をシミュレートするコンピュータの製作という仕事で神経衰弱になり山荘に療養にきた男。彼は他に人のいないはずの山荘で何者かと遭遇したと付き添いの精神科医に訴える。その何者かとは、数分前の彼自身であり、やがて第二、第三のドッペルゲンガーが現れて、男は恐慌をきたす。内面と外部との相互作用的な投影というアイデアは興味深い作品だが、ありきたりな結末も含め小説としての完成度は必ずしも高くない。

Manhole 69 マンホール69 (1957) 訳:吉田誠一

外科手術で睡眠を取り除いた男たちが体育館の中で実験生活を送っている。睡眠は純粋な人生の浪費であり、これを取り除くことによって実質的に人間の寿命が伸ばせるというのだ。初め、実験は上手く行くように思われた。しかし、やがてハプニングで話し相手を失った彼らは絶え間のない自意識の照射に耐えられなくなる。睡眠による内部への探訪というテーマは「時の声」とも共通する。荒削りではあるが初期の代表的な作品のひとつ。

The Waiting Grounds 待ち受ける場所 (1959) 訳:吉田誠一

これはバラード版「2001年宇宙の旅」か。半ば放棄された辺境の星ムラークに天体望遠鏡の管理者として赴任したクウェインは、前任者のタリスが何かを隠していることを感じる。タリスが去った後、彼がその星で見つけ出したのは、宇宙の歴史を刻み込んだ巨大な石板だった。彼はそこで宇宙の成り立ちを幻視する。だが、バラードの視線は宇宙の謎の解明には向かわず、そこで「訪れ」を待ち続ける主人公の内心へと沈潜して行くのである。

Deep End 深淵 (1961) 訳:吉田誠一

酸素を他の植民性に供給するため海水を汲み上げ、分解した残りの水素を大気中に放出した結果、海は干上がり気候も激変した地球の物語。もはや地球は棄て去られ、限られた人たちだけが密かに暮らしている。移住担当官の勧めに逆らって地球にとどまろうとする主人公ホリデー。わずかに残された塩湖で、彼はもはや存在しないと思われていた魚を見つける。いくつかの長編とも通底する、滅び行く風景と呼応する内面のイメージが印象的。



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