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MARI & RED STRIPES  (1977)
MARI & RED STRIPES

★★☆
杉真理&レッド・ストライプス名義でリリースされたデビュー・アルバム。バッキングは杉の大学時代の仲間を中心としたセッションであるが、レッド・ストライプスという固定したバンドがある訳ではなく、この名前はこうしたコネクションの総体に対して杉が親しみを込めて命名したものだと考えた方がいいだろう。良くも悪くも学生時代のノリをそのまま引っ張ったアマチュア臭い出来で、サウンド・プロダクションも抜けが悪くデモ・テープに毛が生えたような仕上がり。完成度としては高く評価するのは難しい。

収録されている曲もムラが大きく、特にスピード、ビートのある曲のプロダクションにはかなり難がある。ボーカルもかなりフラついている。音楽的にはウィングスを下敷きにしているが、カントリー、ブルー・グラス的なテイストも随所に窺えて、繰り返しになるが全体として大学の音楽サークルの延長という印象が強い。杉のキャリアのスタートとなる作品であり、その原型、プロトタイプとしては重要な作品だが、プロとしての作品の作りこみ、絞りこみが足りないため、全体として散漫な出来となった感は否めない。

もっとも、だからといってこのアルバムに聴くべきものがないかというとそんなことはまったくない。特に驚くのはスロー系の質の高さである。後の「LOVE HER」の原型とも思える「思い出の渦」、竹内まりやに贈ったという「TONIGHT」などの他、「はやく君を抱きたい」、「BABY」など、杉らしい素直なメロディ・ラインに乗せて語りかけるように歌う曲は、いずれもメロディ・メイカー、ソング・ライターとしての杉の才能を既に十分伝えている。こうした曲を核として聴けば、その他の曲も微笑ましく思えてくる。


SWINGY  (1978)
SWINGY

★★
杉真理&レッド・ストライプス名義の二作目で基本的に前作の延長上にあると言える作品。引き続きアマチュア臭さの抜けない「セミプロ」の仕上がりであるが、個々の楽曲の完成度は確実に向上しており杉の成長の跡が窺える。特にここでもスロー・ナンバーである「青梅街道」や「帰り道」は、ソング・ライティングの巧みさやメロウなアレンジの妙で今聴いても十分批評に耐える仕上がりになっている。また「下世話な曲を」と言われ循環コードで作った「マドンナ」も客観的にキャッチーで悪くないと思う。

他にもソニー時代の初期のアルバムに入っていてもおかしくなさそうな「インスピレーション」や「雨の日のバースデー」など個別に評価できる曲はあるが、アルバム全体として苦しいのは結局ここでどんな音楽がやりたいのか、若い杉から訴えかけてくるものが希薄だということ。ロックなのか、フュージョンなのか、AORなのかという絞りこみができておらず、できるものを取り敢えずやりましたという軽音サークルノリが顕著。できることの中から何を生かし何を捨てるかという取捨選択ができておらず散漫な印象が残る。

もうひとつ気になるのは歌詞の安易さだ。ここでの杉はまだ手なりで歌詞を書いていることが窺われ、それもまたこのアルバムが散漫に聞こえてしまう原因のひとつだろう。ステロタイプに堕する陳腐な表現が興を削いでいる(「スイス銀行の口座番号は なにがあっても誰にも言えぬ」はないだろう…)。アルバムのそこかしこに一瞬光る原石の輝きが見られるだけに、全体としての荒削りさ、仕上げや詰めの甘さが残念だ。このアルバムの後、杉は入院してしまい、アーティストとしての活動は中断することになる。


SONG WRITER  (1980)
SONG WRITER

★★★☆
病気入院による2年のブランクの後、CBSソニー(当時)に移籍してリリースしたソロ名義でのデビュー作である。休養中にCM音楽や他のアーティストへの曲提供などでソング・ライティングの経験を積んだこともあってか、自作を客観的に見るプロとしてのスタンスが形成されており、ビクター時代の音源とは隔絶した覚醒感がある。アーティスト杉真理の音楽活動は名実ともにここから始まったと言っていいだろう。荒削りな部分はまだまだ残っているが、問題のあった歌詞も作品としての対象化ができており成長が窺える。

アルバム・タイトルは上記のような経緯でソング・ライティングに自信を深めていた杉の矜持を表していると見ていいだろう。アレンジは松任谷正隆が全曲を担当しており、統一感のあるサウンド・プロデュースに貢献している。「Don't stop the music」や「悲しきクラクション」、「追いつめられた恋人たち」といった8ビートの曲は歯切れよく、「恋のかけひき」や「Hold on」といったバラード系の曲は荘重にアレンジしており、杉の巧みなソング・ライティング、分かりやすいメロディの魅力を十分引き出している。

アルバム全体としてはビートルズ、中でもポール・マッカートニーの影響を素直に表現したポップスを聴かせる。特に「サンシャイン ラブ」ではアメリカのヒット・チャートを中心としたエレクトリック・ポップに抗してマージー・ビートの系譜を継いで行く決意がかなり直接的に歌われており、地味で大人しい曲ではあるが、杉のある意味でのマニフェストである。それを大仰な曲にせず、こうした短い3分間のポップ・ソングに託したところに杉のソング・ライターとしての自負を見る思いがする。意欲的なデビュー作。


OVERLAP  (1982)
OVERLAP

★★★★
大滝詠一、佐野元春と共演した「Niagara Triangle Vol.2」と同時期に製作されたソロ第2作。マージー・ビートをベースにしたオーソドックスなポップスを基調にしながら、『セリーナ』のようなジャズ系の曲や、『Simulation Game』のようなモータウン調、杉自身のアコースティック・ギターによるバラード系の『Downsloped Way』も交え、杉の幅広く豊かな音楽的素養を感じさせる。『Catch Your Way』『ガラスの恋人』『Teardrops Are Falling』の3曲がシングルカットされるなど明るく、華やかな色調のアルバムである。

しかし、これだけ表現のレンジを広げている割りにはアルバム全体の統一感は意外なほど損なわれていない。一つには、シングルとして先行発売された『Catch Your Way』と『ガラスの恋人』の編曲を清水信之が手がけている以外は杉自身のアレンジによるものであることが挙げられる。セッション・ミュージシャンの中心を固定したこともバランスの取れたサウンド・プロダクションに貢献している。また、曲ごとの粒が揃っており、歌詞がまるで短編小説のような演劇性を感じさせることもアルバムの輪郭を明確にしている。

杉の特徴である分かりやすいメロディ・ラインも素直に表現されている上、歌詞が十分に対象化されている分、バラードでも失恋をテーマにした曲でも過剰なセンチメンタリズムが曲を「汚す」ことを回避している。日本の「ポップス」にありがちな、情緒的なベタつきを排除しながら色鮮やかなポップ・アルバムを紡ぐ杉の手腕はこの作品で最初の成果として結実したと言ってよい。杉自身が思い入れの強い曲と語る『ガラスの恋人』はリバプール・サウンド。『Catch Your Way』は日産自動車のCFに使用された。


STARGAZER  (1983)
STARGAZER

★★★★☆
CMに使われスマッシュ・ヒットとなった「バカンスはいつも雨」をフィーチャーしたソロ名義の第3作。出世作と言っていいだろう。この作品では杉の音楽に対する幅広く深い敬意と愛情が、杉独特の分かりやすいメロディと演劇性の強い歌詞とによって、親しみやすいが決して情緒に流れない稀有な今日的ポップ・ミュージックとして結実している。前作で固まりつつあった、曲のバラエティによって表現の間口は広げながらも、ミュージシャンの顔ぶれを固定することでサウンドの感触を統一する方法論が今作でも奏功した。

曲の完成度も高い。シングルになった「内気なジュリエット」や「バカンスはいつも雨」のみならず、「素敵なサマー・デイズ」や「スクールベルを鳴らせ!」などのアップテンポな曲を中心に、「OH CANDY」や「春がきて君は…」などでアクセントをつけながら、どの曲もユニークな曲想と明快な構成でアルバムの最初から最後までを一気に聴かせる。特に未来の視点から80年代を振り返る趣向の「懐かしき80's」は、アイデアも曲想も秀逸な出来。この時期の杉のソング・ライティングの冴えを感じさせるスタンダードだ。

タイトルやジャケット、アダムスキーの名前が登場する「スクールベルを鳴らせ!」などのせいでSFをモチーフにした作品と評されることもあるが、本作ではむしろポップ・アルバムとしての水準の高さ、それぞれの曲の作りの確かさなどの普遍的な価値を素直に評価すべきだろう。「サスピション」では浜田省吾が、「内気なジュリエット」では佐野元春がコーラスに参加。杉のポップ・メイカーとしての才能が最もストレートに開花した作品の一つで、80年代にこのアルバムを繰り返し聴けたことは僕にとって幸福だった。


MISTONE  (1984)
MISTONE

★★★★★
前作で垣間見せたSF路線をさらに推し進め、シングル曲「いとしのテラ」を核にコンセプト・アルバムを構築したソロ第4作。最初にいってしまえば杉真理の代表作であり傑作。杉自身としても最も活動に脂がのっていた頃の作品で、一方に才気あふれる杉のソング・ライティングとアイデアがあり、他方に「NIAGARA TRIANGLE VOL.2」への参加や前作「STARGAZER」のヒットでようやくシーンでも認知されアルバム製作にも時間とカネをかけることができる充実した環境があった。杉の作品のスタンダードとなるアルバムである。

内容的には打ち込みを大胆に導入した「いとしのテラ」、ロックンロールの「あの娘は君のもの」からロカビリーの「voice」、ジャズ・ミュージシャンをバックに歌った「冬の海に」まで、ポップ・ミュージックの見本市とでも呼べそうなほど広範であるが、そのどれもが「時間」をテーマにしたトータルなイメージで背後から見事に統合されており、盛りだくさんな印象は確かにあるもののアルバムとして臨界点ともいえるギリギリのバランスを保っている。それを支えるのが杉の高い作曲能力であることは言うまでもない。

SEの多用や極端に切りつめられた曲間、計算し尽くされた曲順まで、このアルバムに注ぎこまれた杉の情熱はすさまじいもの。例えば「二人には時間がない」のミステリアスでスリリングな疾走感が一転して時計のベルから「Backstage Dreamer」につながる瞬間、あるいは「冬の海に」の後の静寂から「いとしのテラ」のシンセのイントロが荘重に流れ出す瞬間、そこには確かにこの時杉が手にしていた魔法の片鱗が窺える。すべてのファクターがひとつの方向を指した杉真理の奇跡。「あの娘は君のもの」に伊藤銀次が参加。


SYMPHONY#10  (1985)
SYMPHONY#10

★★★★
「ラジオ」をテーマにしたソロ第5作。とはいえ前作ほどコンセプチュアルにアルバム全体を作りこんだ印象は薄く、どちらかといえば楽曲本位のポップ・アルバムとなった。個々の楽曲の完成度という意味では前作を上回るようにすら思えるが、その分ややプロっぽくなり、次にどんな展開が待っているのかをワクワクしながら聴き進めるというよりは、安心して聴けるクオリティの高いポップ・ソングが次々に繰り出される安定感のある仕上がり。よく言えば粒揃い、悪く言えば少しばかり平板な作品ではないかと思う。

このアルバムの聴きどころは何といっても「Key Station」だろう。机の上のラジオから流れるポップスで育った世代らしいラジオへのオマージュであり、松任谷由実や山下達郎といったミュージシャンの実名を歌詞に織り込んでいる。また、伊藤銀次、佐野元春、浜田省吾らは実際にコーラスにも参加している。キワモノになりかねないこうした試みを無理なくポップ・ソングとして消化できるのは、杉真理のソング・ライティングの妙とアイデアの冴えによるところが大きい。この曲はシングル・カットもされた。

それ以外の曲も「恋愛狂時代」「Sentimental Dancing」「無実のスーパーマン」「Crying Angel」など、ポップスの王道を踏襲しながら小気味よいテンポでドライブして行く佳曲揃い。これらの曲はアルバムに先立ってリリースされた12インチ・シングル「I DON'T LIKE POPS」で披露されていたものだが、この12インチは9分近いポップス・メドレーで当時の12インチの主流とは一線を画したユニークなものであった。ソング・ライティングには杉の充実ぶりが窺えるが、アルバムそのものとしての印象は地味なものに留まった。

本稿では当初「AB面のラストを飾る『交響曲第十番』と『永遠のShangri-la』がいずれも大仰に流れたのが残念だ」と記載していたが、アナログでのA面ラストは「交響曲第十番」ではなく「恋愛狂時代」だった。僕の勘違いであり、coconutさんから指摘を受けた。お詫びして訂正しておく。


SABRINA  (1986)
SABRINA

★★★☆
1986年にリリースされたソロ第6作。今作ではコンセプト・アルバム路線を取らず、自然体のアルバムとなった。杉がほぼ全曲の編曲も担当しており、ドリーマーズのメンバーの他、スタジオでも以前から杉とは親密なミュージシャンを起用して、気心の知れたバンド形式のレコーディングとなったためか、サウンド・プロダクションはソロ・デビュー以降の路線をそのまま踏襲した安定感のあるバンド・サウンドとなった。楽曲のレベルも引き続き高いが、全体にアルバムを統合するモメントに欠けるため、散漫な印象となった。

後にBOXやピカデリー・サーカスでタッグを組むことになる松尾清憲が初めてコーラスで参加した「Japanese boy」やリバプール・サウンドで聴かせる「恋する0.1」、間奏でのMannaと杉のかけ合いが面白い効果を生んでいる「Weekend lover」、ロックンロールの名曲を巧みに引用した「ほこりだらけのSummer place」など、いかにも杉らしい曲作りの作品も多く、安心して聴けるという点では一定の評価はできるものの、杉のソング・ライティング自体が次第に類型化しつつあり、自作の単純再生産に陥るリスクを孕んでいた。

ソロ・デビュー以来、タイアップによるシングル・ヒットもあり、また、「NIAGARA TRIANGLE VOL.2」への参加などもあって一定の知名度を得、作品的にも「MISTONE」でひとつのピークを迎えた杉であったが、本作はそのような杉のマジック・アワーの残り火的な作品であり、個々の楽曲に支えられてはいるものの、アルバムとしての完成度は前作に比べても見劣りするという他ない。次作以降は明らかにサウンド・プロダクションにも変化が見られ、僕自身としても杉に興味を失い始めるきっかけとなったアルバムである。



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