logo クリエイション・レコーズ物語 / パオロ・ヒューイット


僕はクリエイション・レーベルを愛していた。クリエイションは僕にとって特別なレーベルだった。プライマル・スクリーム、マイ・ブラディ・バレンタイン、ティーンエイジ・ファンクラブ、ライド、オアシス、そしてジャスミン・ミンクス、ビフ・バン・パウ、ウェザー・プロフェッツ、ジャズ・ブッチャー、パステルズ、フェルト、ブー・ラドリーズ、ヴェルヴェット・クラッシュ、さらにはニック・ヘイワード、トラッシュモンク、ジーザス&メリー・チェイン…。ほら、このバンドのラインアップを見れば分かるだろ、って一言書いて終わりにしてしまいたいくらいだ。それくらい愛していたのだ。

アラン・マッギーはそのレーベルのオーナーであり経営者であった。彼は一人でこのレーベルを立ち上げ、いくつものバンドを世に出した。クリエイションはインディペンデントだったけど、80年代後半から90年代のブリティッシュ・ロックにあって最も影響力を持つレーベルの一つだったし、その提供するバンド、リリースするレコードによってその思想を明確に表現することのできる稀有なレーベルであった。

この本ではそのレーベルがどのようにして運営されていたか、またアラン・マッギーがいったいどんな人物であったかということが、マッギー本人とその周辺のレーベル関係者へのインタビューで丹念に明らかにされている。ひとことで言えば、それはこの本のタイトルにもなっているマッギー本人の発言どおり、「こんなエクスタシー・ロマンスはな、いつまでも続かないんだよ」ということだ。

エクスタシーとはいうまでもなくマッドチェスター・ムーヴメントともにポピュラーになったドラッグだ。この本では、マッギーが、そしてクリエイション・レーベルのアーティストやスタッフが、どれだけバカバカしいドラッグとパーティの生活に浸りきっていたかということが繰り返し語られる。「スクリーマデリカ」が、「ラブレス」が、こうしたムチャクチャなパーティ・ライフの中で作られていたのだという事実は興味深いが、それがいずれ必然的に破綻するべき筋合いのものであったということもよく分かる。こんなエクスタシー・ロマンスはいつまでも続かないのだ。

それでもクリエイションはおそろしいスピードでロック史に残るアルバムをリリースし続けた。「スクリーマデリカ」、「ラブレス」はもちろん、「バンドワゴネスク」、「ノーホエア」そして「デフィニットリー・メイビー」…。これらがすべて一つのインディペンデント・レーベルからリリースされたという事実は今にして思えば驚異的ですらある。しかしそこにあったのはビジネス・モデルとか洗練されたコマーシャリズムとは徹底して縁遠いものであった。それは好きな音楽に対する見さかいのない入れこみとデタラメな試行錯誤だったのだ。

それはそう、まさにマッギーが愛したパンクそのものだったと言っていい。ジョニー・ロットンにとって甲高い金切り声で良識ある音楽ファンの眉をひそめさせることが一つの闘争であったように、マッギーはデタラメなやり方で愛するバンドのレコードを売りながら何かを見返していた。もちろんマッギーには音楽の真価を見極める天性の目が備わっていると言っていいだろう。しかしそれだけで自動的にレコードが売れる訳では決してない。むしろクリエイションのコマーシャル・サイドはマッギーの属人的なワーカホリックと人間的な強さに支えられていたのだし、その熱情の背後にあったのは経済的な成功への渇望というよりは、むしろ好きなバンドを自分がマネージすればこれだけ売ることができるのだというような一種の負けん気でありビッグ・ビジネスへの反感であったのではないだろうか。

そうした既成のシステムへの異議申立、カウンター・パンチこそがパンクということの本質的なモメントであるとすれば、クリエイション・レーベルはそれ自体まぎれもなくパンクであった。もちろんそのデタラメさのゆえにクリエイションは経済的に破綻し、ソニーに身売りすることを余儀なくされた。マッギー自身も過剰なドラッグ漬けの生活の末に深刻な心身の危機に直面することになった。しかし彼にとってビジネスそのものが最終的な価値でなかったゆえに、彼はそこでクリエイションを自ら終わらせることができたのだと思う。マッギーは言う。

「ある新聞の日曜版でイアン・ブラウンに批判されたことがあった。一年くらい前のことだけど、彼は『マッギーには問題がある。それは彼がいつまでたってもパンク・ロックを乗り越えられないことだ』って言ってた。それはぼくの長所だよ。短所でも何でもない。でもやつの言っていることは正しいよ。つまり、ぼくはいつまでたってもパンク・ロックを克服することができないんだ」

この中にはパーティー・ライフの無茶苦茶なエピソードがたくさん出てくる。しかし、それら(例えば下半身を露出したガイ・チャドウィックの話とか)を読んで爆笑できる人は、おそらくクリエイション・レーベルを、パンクを、そしてロックを心から愛している人だろう。僕は38歳だがまだ全然パンクもロックも克服なんてできてない。たぶん一生できないだろう。だから僕はアラン・マッギーを信頼するのだし、この本を読んで爆笑しながら泣ける人を愛するのだ。



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